Current Directory is http://www.seikyo.org/【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-1998 by The Seikyo Shimbun.



連載
「米国ジャーナリズム報告」

米国ジャーナリズム報告

【4】



クリスチャン・サイエンス・モニター紙/国際報道局長/クレイトン・ジョーンズ氏に聞く

高級紙(クオリティーペーパー)の条件――世界的な視野と人権重視

創刊(1908年)以来、問題解決型の報道めざす

(1998年2月21日付)



  米国のジャーナリズムを概観するとき、少部数ながら実力ある新聞の存在も見落とせない。そのなかでも『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙は別格の存在である。他の多くの新聞が地域密着ニュースに重点を置いているのに対し、モニター紙は外交・国際経済・軍縮問題・人権などにかなりのスペースを割(さ)いて分析・論評することで今日の地位を築いてきた。看板部門である国際報道の責任者クレイトン・ジョーンズ局長に話を聞いた。(野山智章記者)

“だれも傷つけない”を編集方針に

  ――『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙は編集方針として、「何人も傷つけない(Injure No One)」を掲げているが。

 だれにも害を与えることなく、すべての人々に利益を与えるというのが『クリスチャン・サイエンス・モニター』の編集方針である。当紙は、かつて米国でイエロー・ジャーナリズムが頂点に達した時期に創刊された。創設者自身も新聞による個人攻撃の的になっていた。

 そこで、創設者はジャーナリズムとして高く、かつ、現実的な水準を設定しようとした。全国版を作ったということも、国際性のある新聞にしたということも、当時としては非常に勇気のある行為だと思う。

――犯罪報道は、最も報道被害を起こしやすい分野である。モニター紙は犯罪報道について、どういう基準をもっているか。

 モニター紙では、他の米国の地方新聞と比べ犯罪報道はあまり行わない。連続殺人事件やO・J・シンプソンのケースなど、非常に例外的な場合を除いて報道しないことを原則としている。

 なぜならモニター紙は全米の家庭に届けられている新聞であるのに対し、犯罪事件は大半の場合がローカルなニュースだからだ。社会的な影響の大きい犯罪は報道するが、その場合でも、報道する際は被疑者に対しては「無罪の推定」原則にのっとるとともに、被害者のプライバシーも十分に尊重する。

厳しい広告掲載基準を堅持

 ――ダイアナ元妃の死に際しては、どういう方針で報道したか。

 この事件は、パパラッチによって引き起こされた悲劇と考えられたため社会的注目度が高かった。社会のメディアに対する反響も非常に大きかった。我々は紙上で英国王室を取り上げることはあまりしないので、パパラッチの写真も使わない。

 ダイアナ元妃の死は英国内のタブロイド紙の役割とその内情、モラルの問題として取り上げた。彼女の死の社会的・政治的側面に報道をしぼった。すべての新聞がダイアナ元妃の業績をたたえる報道をしたのは、ごく自然なことだ。

――モニター紙は宗教紙だが、新聞広告の掲載の基準はどうなっているか。

 例えば、政治広告に虚偽や名誉毀損(きそん)につながるような内容が含まれていれば掲載しない。その延長線上で、我々は(健康上に問題があるとして)たばこや酒類の広告を掲載していない。

――日本の新聞では、名誉毀損につながるかもしれないことを承知の上で、雑誌の広告を掲載することがあるが、どう思うか。

 それは、我々は絶対に追従することのない、低い基準だ。モニター紙も他の高級紙も、虚偽や誤解を招くようなことを掲載しないように努力していると思う。

背景・解説に力いれ、“複眼”提供

――モニター紙は九六年に、ボスニア・ヘルツェゴビナでの虐殺報道でピュリツァー賞(国際ニュース部門)を受賞した。国際報道の質の高さが改めて評価された訳だが。

 我々は、なるべく多くの国をカバーしようと心がけており、現在は危機に瀕(ひん)していない国もカバーしようとしている。例えば、インドネシアのスハルト大統領の後継者はだれになるのか、大統領の死後、我々は内戦が起こりうると認識しており、そのために現時点で危機に直面していなくても報道している。

――国連のアナン事務総長が提唱している「プリベンティブ(予防)・ジャーナリズム」についてどう思うか。

 理論上では賛成する。事態が大惨事にまで悪化する前に、人々は問題の所在を知るべきだと思うし、メディアは知らせるべきだ。例えば、アフリカや北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)における飢餓や、他国で内戦に発展しうる武力衝突があれば、予防的な観点からも報道すべきだと思う。

――モニター紙は、どの通信社と契約しているか。また、配信記事をどのように使っているか。

 ロイター通信、AP通信、ドイツのDPAやロサンゼルス・タイムズ紙とも提携しているが、それらから得た情報は主にサブの紙面に使い、また、使用する場合も背景情報として利用するにとどめている。

 モニター紙は、他紙とはかなり違った側面をもっていると思う。まず我々の記事の大半は独自ネタであることが挙げられる。ほとんどの記事は、自社の記者が書いたもので、モニター紙としては、読者に複眼的な視点をもってもらいたいと考えている。

 事件、出来事に関する報道だけでなく、その背景を報道・解説することで、読者が深い理解を得られるようにしたいのだ。

クリスチャン・サイエンス・モニター紙について/ピュリツァー賞6回の栄誉

 ボストンに本部を置くクリスチャン・サイエンス教会が発行する日刊新聞。一九〇八年に創刊。米国の文化・芸術・報道の各分野で毎年最高の業績に対して贈られるピュリツァー賞を六回受賞するなど、世界的な視野をもった新聞として国際的に評価が高い。

 創立者メアリー・ベーカー・エディー夫人は、センセーショナリズムやスキャンダリズムを排した、前向きな「問題解決型」のジャーナリズムを同紙の「憲法」として明文化した。現在の発行部数は約八十万部。

取材メモ/孤立恐れぬ姿勢に読者の支持

 ボストンのクリスチャン・サイエンス本部教会の建物に隣接したモニター紙本社編集局内でインタビュー。

 冒頭、同紙の編集者・記者はどれくらいの割合が教会員なのか聞くと、「トップの編集者とその次のレベルの編集者が会員だ。海外特派員の大半は非会員だ」との回答。ちなみにジョーンズ氏は教会員である。

 米国に限らず今日のジャーナリズムの抱える問題に“横並び志向”があるが、氏は「(問題解決型の報道を心掛ける故に)時には世論の主流と対立することも免れない。他とは異なる視点を提供しようと努力することで、良い意味で世論の流れに逆行しているといえると思う」と。あえて、孤立すること、孤立を恐れぬことを誇りにしていた。

 モニター紙が長年、教会員以外の多くの読者からも評価され、支持されて、高級紙の名声を維持してきた秘訣(ひけつ)を垣間(かいま)見た気がした。



略歴 Clayton Jones  1951年、シカゴ生まれ。イリノイ州のプリスピア大学卒。モニター紙には24年間勤務している。3年前から同紙の国際報道局長。それ以前は東京支局長の任にあり、日本の外国記者クラブ会長も務めた。そのほか、マニラで東南アジア報道に4年間携わり、ワシントンDC、その他の場所でも勤務経験がある。