

(1998年2月7日付)
一九六〇年、ケネディ大統領の初当選にテレビ討論の見栄えが決定的な要因となって以来、現代のデモクラシー(民主主義)はメディアクラシーと言われてきた。また日本では、九三年総選挙後の細川政権誕生にテレビ報道が大きな影響力を持ち、当時の椿貞良・テレビ朝日報道局長の「非自民連立政権が生まれるよう指示した」(産経新聞報道)との発言の真偽(しんぎ)・是非が政治問題化したことも記憶に新しい。世論の動向を左右するといっても過言でないテレビ報道はどうあるべきか。世界最大のニュース専門局CNN(ケーブル・ニュース・ネットワーク)の国際報道局上級プロデューサー、テッド・アイリフ氏に聞いた。(野山智章記者)
――常に政治的な公正さが問われる選挙報道についてCNNが心がけていることは?
米国のどの選挙にも適用される(CNN内規の)公平原則に基づいて報道するよう努めている。選挙時に、政治的問題について誰(だれ)かが論じている場合は、多数の意見を、同時もしくは交互に出すように努めている。
一度に多数の意見を報道することは時に不可能だが、選挙戦全体を通じて最終的には全(すべ)ての考え方が放映されるよう努めている。CNNやCNNインターナショナルを一、二日見ていれば、ほぼ全ての論点が網羅されるようになっている。
信頼性のあるものであれば世論調査の結果も発表する。もし、その国の法律でそうした結果を事前に発表することを禁じているのであれば、それを尊重する。
できるだけ個人的な問題を報道するのを避け、政治的問題にしぼるように心がけているが、時には個人的問題を報道せざるを得ないときもある。例えば、ペルーの選挙の際に、フジモリ夫人が問題になった時などは無視するわけにはいかず、報道した。しかし、普通はスキャンダル報道は避けている。
――バランスをとろうと神経を使うせいもあってか、選挙報道は視聴者から見て“横並び”と映りがちだが。
選挙時には特別な選挙部門を設置し、選挙戦から距離を置くように心がけている。選挙戦の中で日々何が行われているのかを追うのではなく、少し距離を置いて何が本当に報道されるべきなのかを考えるように努めている。
――選挙時に、しばしば候補者や政党間で行われるネガティブ・キャンペーン(中傷宣伝)については、選挙報道上どのように対応しているのか。
我々は論点を作り出すのではなく、論点を報道する。もし、政治的対話がネガティブなレベルで行われているのであればそれを報道せざるをえない。ネガティブな広告については、その信憑(しんぴょう)性をチェックする機関を内部に備えている。もし、いずれかの候補者が虚偽の広告を流しているのであればその事実を報道する。
(前回の選挙戦で)クリントン大統領は、ネガティブ・キャンペーンにうんざりした有権者の“反動”を利用して有利な立場に立つことができたと思う。クリントンの選挙戦術の一部はこうしたネガティブ・キャンペーンを批判することにあった。
地方選挙、上院選挙でもネガティブ・キャンペーンをしないことを謳(うた)った候補者が勝利したケースがある。今後二、三回の全国選挙ではネガティブ・キャンペーンに対する反動がみられるだろう。相手の欠点を暴くのではなく、自分の強みをアピールするようになっていくのではないかと思う。
名作『風と共に去りぬ』の舞台である米国南部の中心都市アトランタにあって、今や観光名所ともなっている本社ビル内のCNNインターナショナル編集フロアでインタビュー。国際報道の第一線で編集の指揮をとるアイリフ氏は生粋のテレビマンではない。国際通信社記者やドイツのラジオ局で働いた経験とナチズムに関する著書を持つというだけあって、歴史家か社会学者のような風格の人物だった。
CNNのみならず公正さの追求は難問である。氏は内省的に「ジャーナリストは実際に人々が何を考えているのかを見失ってしまうことが多々ある。特にワシントンでよく見られる現象だが、ジャーナリストはいつも仲間同士で話し合い、仕事をしているうちに自分たちの世界の中での現実感を作りだしてしまう。実際に人々と話してみて初めて自分たちの作り出した現実感が人々の考えていることと食い違っていることに気が付く」と。
そうした独断と偏見を修正する意味からも、当事者や視聴者を交えた「トークショーや、コール(電話参加)ショー、Q&Aなど、人々が言いたいことを聞く形式の番組」の重要性を強調。また、「こうした番組は驚くほどの高視聴率をあげ、CNNインターナショナル番組内でも最高人気を誇る番組である」と熱を込めて語ってくれたのが示唆的だった。事実、クリントン大統領の女性スキャンダルに関する加熱した報道は視聴者からの批判を浴び、ようやく抑制の傾向も出ている。
一九八〇年一月に開局した二十四時間放送ニュース専門局。ジョージア州アトランタに本社を構える。現在、世界中に二十九の支局を持ち、二百十カ国・地域以上、約一億五千六百万世帯で視聴されている。
創立当初は成功が危ぶまれたが、レーガン大統領暗殺未遂事件や天安門事件などの報道を飛躍台に、米国三大ネットワーク(ABC、CBS、NBC)の独占体制に穴を開け発展。
とりわけ一九九一年の湾岸戦争時、爆撃下のバクダッドに一人残ったピーター・アーネット記者はイラクからの映像を送り続け、他メディアを圧倒。以来、ニュース報道では三大ネットワークを凌駕(りょうが)し、“世界で最も重要なネットワーク”を自称している。
略歴 Ted Ilife 1949年カンザスシティー生まれ。ニューヨーク州立大学卒。UPI通信記者、ミュンヘンのラジオ・フリー・ヨーロッパ記者、創刊時のUSAツデー紙記者を経て、1989年にCNNへ。現在、CNNインターナショナルの上級プロデューサー。共著に、ナチスとヒトラーが活動を開始したミュンヘン市内の場所をドキュメントした『ヒトラーとミュンヘン』がある。