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21世紀の日米関係を考える

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21世紀の日米関係を考える(下)

マイケル・グリーン外交問題評議会主任研究員に聞く

(1999年2月20日付)




「安保条約は東アジアの平和の要」

ガイドライン関連法案の成立を期待、と



 予算案の年度内成立が確実になったことで今後の国会論戦の焦点は、日本周辺で有事の際、米軍に対する自衛隊などの後方支援を法制化した日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)関連法案の審議に移る。ここでは米国側の見方について、国防総省の対日安保政策に関する顧問として、ジョセフ・ナイ国防次官補(当時)らと「東アジア戦略報告書」(九五年)作成に携わった外交問題評議会のマイケル・グリーン主任研究員に聞いた。(聞き手=野山智章記者)



強固な日米同盟が冷戦終結に寄与

 ――米国民から見て、日米安全保障条約が果たしてきた役割と効果をどう評価するか?

 日米安全保障条約は、冷戦の平和的終結をもたらした主要な要素の一つだった。まず、(日米の)同盟関係が旧ソ連の脅威を封じ込めた。

 例えば、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、ベトナムのカンボジア侵攻を支持した時、ソ連軍は極東地域にかなりの数の爆撃機、潜水艦、戦闘機、軍艦も配備した。シーレーン(海上交通輸送路)を脅かし得るこれらの配備は、アジアの平和と安定に脅威を与えるものだった。しかし、日本の防衛力と米国との緊密な安全保障協力が、ソ連にこれらの軍を使うことを困難にした。このことが、冷戦終結に至る重要な変化をソ連内部に引き起こすことに寄与した。

 日米安保条約は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の抑止にも不可欠である。冷戦時代もそうだったが、北朝鮮政府が弾道ミサイルや核兵器開発を意図している今日、その重要性はいや増している。日米同盟の存在が、北朝鮮に、生き残るためには外交ルートを選択せざるを得なくさせている。なぜなら、北朝鮮の攻撃あるいは挑発行為に対する米国の反応を日本と韓国は支持するだろうことを、北朝鮮政府は知っているからである。

 更に、最も重要なことだが、日米安保条約は、域内の平和と安定に対する脅威となるような敵対的な覇権(はけん)勢力の台頭はないということを担保している。

 米国は日本の支持のもと日本に引き続き関与することを選択し、日本は米国との協力のもとにその安全保障を確保することを選択したのだ。その他の国々は新たな脅威に対する防衛策として核武装を選択したり軍事力を強化する必要がなくなる。

 もし、日米同盟が終われば、中国あるいは日本の軍事力への恐怖から、あるいはまた、隣国への恐怖から、域内各国がパニックに陥ることは容易に想像できる。この軍事的な悪循環(じゅんかん)が地域の信頼を根底から揺るがし、各国の軍事支出を増大させ、福祉・科学・貿易・投資への予算削減を引き起こすだろう。アジアでの軍備増強の悪循環を防ぐ最善の方法は、日米がその強力な同盟を維持することである。

多国間主義は同盟の代替になりえない

 ――冷戦終結後の国際情勢の変化に対応して、日米安全保障条約のあり方はどう変化すべきか?

 今日、同盟に代わって多国間フォーラムを構築すべきだと主張する人がいる。私はアセアン地域フォーラムのような多国間フォーラムを日米は支持すべきだと信じている。しかし、地域内の安定を保障するものとして、多国間フォーラムは日米同盟にとって代わることはできない。

 第一に、多国間構造がそれを下支えする軍事同盟なしに安定を増大させた歴史的前例はない。国際連盟や、その他の一九二〇〜三〇年代のアジアでの多国間組織は、日英同盟の廃棄後、完全に崩壊した。

 国連はボスニアやペルシャ湾でいくらか効果をあげているが、NATO(北大西洋条約機構)の強力な政治的・軍事的支えがあればこそである。多国間主義(multilateralism)が平和を維持したことはこれまでなかった。つまり、平和を高めることはできても維持することはできない。

 第二に、アジアの多国間制度は極めて未成熟であり、ほとんど実質がない。より透明性を推し進める必要がある。しかし、自由民主主義国家のみが透明性に同調できる。中国を含め、全体主義的色彩をもつ国にとっては、透明性は脅威と映る。

 最後に、多国間主義は往々にして自国の選択肢を拘束する同盟関係を弱体化させようとする国によって利用される。中国がさらなる多国間主義を求め始めているが、これは主として米国の一連の二国間同盟が中国の域内影響力を抑えているからである。多国間フォーラムヘの中国の参加を促していくべきだが、米日、米韓関係を弱めることを狙っての単なるレトリックではく、真の透明性と信頼醸成(じょうせい)を強く主張すべきである。(日米)同盟の今後のあり方について、安全保障政策を更に強化していくべきか、根本的に見直すべきか、米国内での議論がある。根本的変化(方向転換を求める人もいる。彼らは、日本は集団的自衛権を認め、米軍基地の数を削減して条約をより「平等」なものにすべきだと主張する。私は安全保障を増大させるべきだと主張している。

 日米両国がこれほど異なった国である限り、純粋なシンメトリー(対称性)を持つことは不可能だと考える。重要なのはそれぞれの強みを共有しあうことである。日本は政治的・軍事的役割を果たすこともできるが、外交や安全保障の分野にも強みを持っている。米国は明らかに核の傘(かさ)や通常的軍事能力を提供するのに中心的役割を担っている。

 将来、日本が憲法を改正し、日本の軍隊(自衛隊)が例えば、遠く湾岸地域でも米軍と緊密な軍事行動を共にするだろうと私は思う。しかし、今こういった変化を無理に起こそうとすれば、域内の日米同盟に対する信頼を揺るがしかねず、日本国内では二分するような論争を引き起こすだろう。

 日本国内のできる限り幅広い政治的支持に基づいた、より強固な同盟関係を構築していかねばならない、というのが私の意見である。(安保)条約に対する支持は幅広く、近隣地域における平和への脅威を認識する日本国民が増えていると思う。こうした前提によって新しい日米防衛ガイドライン、戦域弾道ミサイル防衛(TMD)やその他の同盟強化の手段を実施することができるはずである。

日本に望みたい危機管理体制の整備

 ――ガイドライン関連法案を巡る日本国内の論議について日米関係の専門家として、日本国民に期待することがあれば。

 ガイドライン関連法案は絶対的に重要である。

 第一に、日米両政府が北東アジアの危機に備えるための道を開くことになる、地下鉄サリン事件や阪神大震災での日本政府の対応の遅さを思い出してほしい。北朝鮮からの挑発や攻撃など、地域内で危機が発生した時に混乱や麻痺(まひ)状態に陥っている余裕などない。

 第二に、ガイドライン関連法案の迅速な可決は北朝鮮に対し、日本と米国を切り離すことも、ミサイルや核のプログラムをうまくやりおおすこともできないということを示すことになる。(朝鮮)半島外交の希望は同盟としての我々(日米)の抑止と安保協力の信用性にかかっている。

 第三に、法案の通過は米国内の批評家たちに日本は域内の信頼できる同盟国であることを示すことになる。

 最後に、ガイドライン関連法案の通過は地域に対して、国民の支持に基づいて米国との安保関係を築いていると示すことになる。

 しかし、ガイドライン関運法案は一歩にすぎない。日本はいわゆる有事立法も含め、自国の危機管理体制を更に強化していく必要がある。

 ガイドライン関連法案の具体的内容に関して、ガイドラインの信用を揺るがすような条件が課されないことを望む。「国会承認」は重要なコンセプトだが、後方支援の提供前に、あるいは後方支援の提供を継続するためにさえ、政府に国会の承認を義務づけるような法案では、危機に際しての日本の協力の信憑性(しんぴょうせい)に大きな疑問符をつけることになる。



 外交問題評議会(The Council on Foreign Relations)

 創立75年の伝統を誇る米国の独立系政策シンクタンクで、政府の外交政策に多大な影響力を持つ。ここで発行する『Foreign Affairs』は、各国指導者の必読誌となっている。



取材メモ

米政府の“本音”を代弁か

 日本の安全保障を専門とする気鋭の学者グリーン氏は、立場こそ民間シンクタンクの研究員だが、米国政府の“本音”を代弁する論客として注目されている。しかしながら、軍事力の強固な保持や同盟国の軍事貢献の拡大を唱える氏の主張は、やはり、リベラルではなく保守派の意見であると認識すべきなのだろう。なお、この記事は、氏と電子メールをやりとりすることによって作成した。



略歴 Michael Green 1984年、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題大学院(SAIS)にて国際関係論で博士号取得。87〜88年フルブライト奨学生として東大大学院に留学。在日中は岩手日報の研修記者や国会議員秘書を務めた経験もある。93〜95年、SAIS助教授、米国国防分析研究所(IDA)戦略部研究員を経て、現職。ナイ氏との共著『米日同盟再定義』ほか、日米防衛関係の著書多数。(写真=共同)